第84話「介護とは何か」(あとがきにかえて) [お見送り期]

2017年初春

父の介護生活を綴ったブログ「おやおや介護絵日記」は
2010年3月に父が倒れてから、2017年1月の納骨の儀まで
およそ7年間に渡る、長い記録になりました。

その間、私たち家族の生活は「父と介護」が中心でしたが
それだけではもちろんなく、仕事や、趣味や、交友関係…など
色々な物事が、並行して行われていた日々でした。

そんな日々の中で感じたのは
「介護と言うのは、私の人生の中の一つの通過点に過ぎない」
と言う事でした。
介護はそれ自体が重く大変なものです。
精神的にも、肉体的にも、金銭や時間的にも
のしかかってくる負荷は大きい。
その上、人の命に関わる事でもあります。

なのでさらりと「通過点」と言い切れるほど、軽いものでは
決してないのですが、それでもどんなに影響力が大きくても
例えば「彗星の衝突みたいに、ある日突然現れて
周囲の人々の人生を激変させてしまう程の、恐ろしい災い」
と言う類ではありません。

確かに介護をしている最中は、先が見えなかった不安もあり
「なぜ私が介護を…」と、たびたび重く捉えがちでしたが
過ぎてみると「きっとこの時期、この行動(介護)をする事が
私がやらなくてはいけない、修行みたいなものだったんだろう」と
割とさっぱり思えるようになりました。

一つの修行(カリキュラム)が終わったら、その次は
また新しい流れが来る。
そしてまた、それを乗り越える為に頑張っていく。
こうした事を繰り返して、私はきっと自分の人生を
作りあげて行くんだろうと思います。
そう捉えた時、介護は一つの通過点に過ぎなかったように
思えたのです

ただ、時には乗り越える事が困難な程
重くて辛い修行でもありました。
その中で生まれたのが、このブログです。
モチベーションを上げるために、外とのつながりを保つために
何とか介護を乗り越えるために、綴っていたブログです。
そしてこのブログを付け始めてからは、いつも前向きな発想を
心がけてきました。
それがきっと、悔いなく父を見送る事が出来た結果に
繋がったと思います

介護ブログはその間、本の形になって出版されたり
テレビで紹介して頂けたり、イラストの原画展を開催するなどして
当初の想像よりも、はるかに多くの方々に知って
頂く事が出来ました。
ブログは現時点(2017年2月)で、累計12万アクセスを超えました。
沢山の方々の励ましのお言葉や、さりげない応援も、
父を始め私たち家族を支える大きな力になりました。
この場を借りて、御礼申し上げます。


84介護って何?.jpg

ところで全てが終わった後、改めて振り返って
「介護って一体何だったんだろう」と思う時があります。
いつも後ろを振り返らず、前だけを見て来たつもりですが
後悔もありました。

最後に療養型の病院に入れた事も、少し後悔していました。
家に帰れず可哀想だったんじゃないか、とか
結果として死に目にも会えなかったじゃないか、とか。
あとはもっと優しくしてあげれば良かったとか。
でも父が亡くなった後、透析病院とのやり取りが記録された
ノートを見つけ出して読んでみると、もうすでに
療養型病院に入れる半年ぐらい前から、父の体のバランスは
崩れ始めていて、自宅で看られる限界に達していた事を
改めて知りました。
病院に居たからこそ、ここまで長く生きられたんだと確信して
後悔は消えました。

もしかしたら、ご家族の介護を経験された方の中にも
介護が終わって時間に余裕が出来て
ホッとしたところで「あともう少し、こうしていれば…」と言う後悔が
湧いてくる方が、いるかもしれません。
私自身、もうやる事がないと言い切れるほど介護したはずなのに
それでも「あの時…」と言う思いが生じるほどです。
たまたま我が家には、病院との記録ノートが残っていたので
それを開く事で現実を見る事が出来、後悔も消えましたが。

なのできっと、みなさんもその時々で「これが一番だ」と思う
ベストの選択をしてきていると思うんです。
だから、後悔は無用なんですよ…と思いたいです。

ところで病院で父と向かい合っている時は、不思議といつも
優しい気持ちになれました。
日常がどんなに殺伐としていても、忙しなくてイライラしていても、
何故か病院を出る時には、いつも穏やかな気持ちに
なっていました。
別に病床の父に、愚痴を吐いたわけではありません。
むしろ常に明るくて、楽しい話題を心がけていたので
日常の殺伐とした事は封印して、接していたにもかかわらず
それでもいつも私自身の心が穏やかになって、帰宅していました。

それがどうしてなのか、今もわかりません。
介護は弱った人の体を、周囲の健常者が支える作業だと
思うのですが、でももしかしたら、私達支える側の人間の心も
いつの間にか癒されているのかもしれません。
私は宗教には疎いんですけど、それでも
人の「優しさ」とは、神様に近い領域なのかもしれない…と
何となく、漠然と思います。
そこに触れる事で、介護する側もされる側も
相互にケアされているんじゃないか。
そういう精神的な領域にまで思いを達すると
「介護って何だろう」と言うテーマは、とても奥が
深いように思います。

介護は大変でした。
でも大変な経験だったからこそ、きっと得た価値は大きい。
そう信じたいです。



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