第74話「療養型病院に長くいると言う事は」 [寝たきりの日々と工夫]

2016年の春

2016年に入り、父の容態は可もなく不可もなく
穏やかに過ぎていきました。
ずっと耳だけは良く、頭もしっかりしている状態は
変わらなかったので、お見舞いに行っても
張り合いはありました。
けれど体重は徐々に減っていき、春の終わりごろには
38キロまで落ちてしまったのが気がかりでした。

小さくなる父75.jpg

いつしか食事量も入院当初の半分になっていました。
「ご飯を食べさせないから、体重が落ちるのでは」と思ったけれど
むしろ逆で、体がもう食事を受け付けないのかもしれません。
気が付くと、この病棟で父よりも長く入院していた方が
誰もいなくなり、いつの間にか男女合わせて
「一番長い入院患者」になっていた事も、また気がかりでした。

少しずつやせ細り、背中を掻いてあげても
骨と皮ばかりでの体になってしまった父を見て、叔父は
「即身仏みたいだな」と口走りました。
徐々に仏様に返る、確かにそんな感じかもしれません。

そして2年半もの長い間入院していると、さすがにスタッフさんも
情が湧くらしく、何人かの方は父を「かぶさん」と呼んで
温かく親しく接して下さいました。
しかし中には新しく入ったスタッフの方(年配の女性)が
少々調子に乗って大声で「あと処置していないのは誰?
ああ、あれか。かぶらぎ!かぶ!」と叫んでいた事もありました。

私がいた事に気が付いていなかった様なので
「うーん、なるほど。家族がいる時といない時では、患者の扱いが
雑になる人もいるのだな」と、驚くと同時に
こういう場も垣間見られて良かった、とも思いました。
とは言え、この問題はこの方の個人的な性格から来る
極端な事例だと思いますが。
実際、この方は父以外の他の患者さんに対しても、同じ様な
言動をとっていました。

呼び捨て75.jpg

しかし、こういう場に遭遇すると、つくづく「誰だって好きで
こんな体になってるわけじゃないのになぁ。体が弱ったからと言って
人間の尊厳がなくなったわけでもないし、何もわからない
木偶の坊でもないのよ」と思ってしまいます。
しかし一番悔しいのは、何より父本人でしょう。

長い入院生活の間、しばしば「患者(人間)の尊厳って、
どこまで維持できるものなのだろう」と言う場面に対峙しました。
そしてできる事なら私は、尊厳を保ったまま生きたい。
そのために介護を受ける身には、なるべくなりたくない。
「介護を受けない体」とは「尊厳を保つ生き方が出来るという事」です。

しかし、そんな状況も他のスタッフさんが素早く気づいて
制して下さったせいか、その後は気になる言動はなく
父はいつも穏やかに過ごしていました。
逆に言うと、父がいつも快適に過ごせるように
関わっていたスタッフさん達が熱心に世話をして
くれていたせいだとも言えます。

実際ある看護師さんからは「他の病院は3か月周期で
転院しなくちゃいけないでしょう。だから患者さんと接しても
忙しないんだけど、でもこの病院はみんな長くいるから
どうしても愛着がわいてきちゃうのよね」と言われました。

色々な事もあったけれど、スタッフさん達からはとても
親しまれて過ごしていた父。とてもありがたかったと思います。



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