第53話「療養型病院での生活が始まる(日常編)」 [寝たきりの日々と工夫]

2014年1月

自宅介護が限界に達した父は、療養型のJ病院に転院し
以後、そこで生活する事になりました。

病院は完全介護なので、父にとっても一番快適な環境ですし
昼夜問わず安全な場所です。
極端な言い方をすると、家族は病院に患者を任せたまま
何もしなくても大丈夫、とも言えます。
でも我が家と病院は、結構近い距離にある。
バスか電車、どちらか1本でたどり着ける
片道約30分の近さです。

実は最初に父が倒れた際、リハビリの為に入院していた
H病院では、家族は仕事の忙しさもあり
父を病院任せにしてしまい、毎日様子を見に行けませんでした。
その結果、父の身体には様々な不備が生じました。
詳細は省きますが、とにかくその事も頭の隅にあったので
家族も「病院任せにせず、なるべく通おう」と決めました。
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折しも、父がこの療養型病院に入って2か月後、
私も長く勤めていた職場を辞めて、イラストの仕事のみに
切り替えたので、病院に通う余裕が出来ました。

そしてマメに通ってみると、完全介護とは言っても、
(看護師さんや介助士さんが、懸命にケアしつつも)
補いきれない所が、たくさんある様でした。
「最低限の日常生活は維持させてもらえるけれど
必ずしも、かゆい所に手が届くわけではないんだな」と
言うのが、個人的に見た「完全介護」の現場でした。

なので病院側の手の届かない細かい個所を
家族が行って、さりげなくフォローするのが
望ましいと思います。
詳細は、また別の項目(第55話「療養型病院での介護のコツ」)で
お伝えしますが、それ以外にも患者さんの精神面のケアも
家族にしかできない大切な要素だと思います。

こう書くと『病院に預けたのに、楽にならず色々大変そう』と
思う方もいるかもしれませんが、家で看ていた時に比べたら
私たち家族の生活は、はるかに楽になりました。
透析やデイサービスへの、朝夕の送り迎えもなければ
各施設宛に連日書いていた連絡帳への記入もしなくていいし
母も透析病院に持たせるお弁当作りや、各施設用の荷物の準備を
しなくてもよくなりました。他にも日々の食事も、洗濯も、掃除も、
格段に楽になりました。

更に、大雪や台風の時でも交通の心配をすることなく
透析が出来る事への安心感や、おふろ、トイレの心配、
夜間に起こされる焦り…などからも解放され、少しずつ
家族の生活にも、ゆとりが戻ってきました。
夜に仕事の打ち合わせや、用事が生じても、もう大丈夫です。

そんな、ありがたい「療養型病院の日々」は、通うたびに
色々な発見がありました。皆さんそこで「生活」をしているので
時には「へぇ、寝たままでこんな事が出来るのか」と
思うような事にも遭遇しました。
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例えばレントゲン撮りや、散髪など。
またトイレのケアや、ベッドメイキングも、看護師さんや介助士さんが
父をベッド上に置いた状態で、1人で手品のようにパパパッと
器用にこなしていて、感心した事もありました。
(介護士さん曰く「自動車の教習所と同じで、コツがあるんですよ。
一度覚えたら、後はそれに習って行えばいいので楽なんです」と。
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また洋服の脱ぎ着なども「肩とか肘とか、定位置に当たる部分の布を
少しずらした状態にすると、楽に着せられるんですよ」とも。
なるほど、自宅で介護している時に知りたい情報でしたが
そうかと言って、我々シロウトが確実に出来るとも限りません。
やはりプロはすごいのです。感動的なぐらいの神業でした)
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更にこうした細かい部分だけでなく、全体的な雰囲気としても
一種独特の空気が、ここにはありました。
通常の「治療型病院」は、患者さんの悪い所を直して
また世の中に送り出す役割なので、患者さんはもとより、
先生も看護師さんも、明るくパワフルな感じです。

だけど「療養型病院」は、長いスパンで生活と治療を
行っている為か、患者さんも、のんびり穏やかだし
(中にはご病気の種類によって、騒ぐ方もいますが)
看護師さん達も、良く言えば実にアットホームです。
だけど同時にどうしても逃れ様がない、濃厚な死の気配も
各所に漂っています。それ故に独特の雰囲気なのです。

初めて行った時は、つい先日まで入院していた
新築の大病院と比べてしまった為に、物悲しく、
寂しい感じがしましたが、慣れると今度は妙に懐かしいような
家庭的なような、そんな感じにもなりました。
消毒液や生活臭の、そんなちょっと独特のにおいに包まれながら
病院での生活がこうしてスタートしました。

父の様な重篤な患者を、こんなに家から近い場所で
預かって頂けて、本当に良かった。
当然感謝してしかるべきなので、出来れば『トラブル面』は
見て見ぬふりをしたい所なのですが…。
次回は「いやぁ、こんな事もあるのか」と言う様な、
不測の事態も併せてお伝えできたらと思います。
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