第54話「療養型病院での生活が始まる(びっくり編)」 [寝たきりの日々と工夫]

2014年1月~

療養型病院での日々は、自宅での介護とは
また違う側面で、驚かされる出来事が色々とありました。
今回はそんな話をいくつか。


その1:伯父、違う人をお見舞いする。
初めてJ病院にお見舞いに行った、父の実兄である伯父夫婦に
看護婦さんがうっかり、違う病室のベッドを教えてしまったそうです。
すぐに分かりそうなものなのですが、なぜか二人は気づかず
赤の他人のおじいさんを見て「こんなになっちゃって」と
その面変わりを憐れんで、ずっと手を握り続けていたそうです。
その間、約20分。
間違いに気づいた看護師さんが呼びに来るまで、
全く気付かなかったとか。
「なぜ分からなかったか?」と親族の間では
この不思議な謎が、しばらく話題になっていました。

それにしても「こんなになって」と、いきなり言われた患者さん、
ちょっと気の毒。
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その2:にぎやかな患者さん達
病院にいる患者さんたちは、大体の方がご高齢なので
寝たきりか車いす姿です。全体的に静かな感じの方が多い印象。
でも中には認知症を患っている為、大声を発したり、
ずっと歌い続けている様な方もいますが
それはこの病棟では、わりと少数派でした。
でもなぜか父と同室になる方々は、いつもちょっと個性的。
一度お見舞いに来た、看護師のJちゃんでさえも
「おじさんの病室だけ、妙に元気で生命力にあふれてるね」と
おかしそうに笑っていました。

例えば
1分ごとにナースコールを押しては、看護師さんを呼ぶ人や
大声で奇妙なお願いを言い続ける方
ずっと奥さんを探して大声で呼んでいる方
黄色いインコが飛んでるから気を付けて、と教えてくれる方
そしてそんな彼らに律儀に対応しては、逆に騒ぎを大きくしている
「介護おばさん」の存在。
『病院ってこんなとこ!?』と、一瞬戸惑うほどに活気あふれる日常。
しかし父にとってこの環境は、むしろ寂しくなくていいのかなと
強いて前向きにとらえてみます。
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その3:散髪、毛だらけ事件
ある時、散髪後の父が毛だらけになっていた事がありました。
原因は散髪業者さんが、刈った後の毛の処理を怠った
(もしくは簡単に済ませてしまった)ため。

ゴロゴロのローラーで枕もとに落ちた毛を、取っても、取っても、
まだ細かい毛が落ちてきます。おかしいと思ったら、実は頭に
刈った毛が、そのままべったりと残っている状態でした。
寝巻の襟足にもたくさんの毛が入り込んでいて、首の後ろも
チクチク痛痒そうです。
病院のおしぼりを借りて、何度も頭を拭き、ローラーで毛を取り…を
結局3日間ぐらい繰り返して、ようやくきれいにしました。
これは本当に大変な手間でした。
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わざわざお金を払ってお願いしているのに、これはちょっとひどい。
しかもなぜか後頭部の髪も、一部ちょろんと残っていて
辮髪(べんぱつ)みたいにされていたし。
なので病院側とも相談して、次回から散髪時は
私が作業に立ち会う事にしました。
散髪に関しては毎回色々あったので、その対策も含め
まとめて別の章でお伝えいたします。
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その4:肌を強く拭かれて傷だらけ
時々、父の目の周りが赤く傷ついて、時には
赤剥けたり、流血している事がありました。
どうも看護師さん達が汚れを落とすために、ごしごしと
顔を強めにこすっている事が原因のようです。
病院のレンタルおしぼりは、キメが粗く固い素材なので
皮膚の薄い部分は傷つきやすいのです。
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この件に関しては、皮膚科の先生や師長さんらが何度も
「皮膚が薄くなっているから気を付けるように」と、看護師さん達に
伝えてくれましたが、それでもなかなかすぐには
解決しない問題でした。
対策としては、汚れがひどくなる前に家族が優しく
顔を拭くしかないようです。


その5:勝手に冷房調整事件
夏が近づくにつれて、院内の冷房や除湿が入りはじめました。
温度調整は案外難しく、室内は思った以上に
寒かったり、暑かったりしました。
病院に入ってからと言うもの、自ら動けず、ほとんどしゃべる事も
出来なくなった父が、果たして今暑いのか、寒いのか。
タオルケット1枚かけるのも判断に悩みました。
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とは言え温度設定は、原則的に病院側が管理しています。
問題は傍らの「介護おばさん」です。
一日ずっといらっしゃるので「寒い、暑い、寒い」を繰り返しては
冷房が入っているのに、窓を開けて暑い外気を取り入れてしまったり
勝手に空調の電源を切って、部屋を蒸し暑くさせたり
果ては自分が介護しているおじさんのベッドを、冷房の風が
当たらない所に、ガタガタ移動させてしまったり。
そう、おばさんのこの行動に合わせて、父にもふとんを
被せたり、取ったりを、余儀なくされました。いらぬ手間です。
ちなみに最終的におばさんには病院側から
『冷暖房スイッチ触るの禁止令』が出たとか…。


その6:首くくり事件、多発中
時々父は、寝巻が上の方にたくし上げられた
「首つり」状態で寝ている時があります。
原因は色々考えられそうですが、とにかく
とても苦しそうなので、行くたび寝巻をチェックして
治しています。
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その7:介護おばさん、あらわる
最後になりましたが、この章ですでに時々登場している
強力なインパクトを放つ「介護おばさん」について。

この方は病院関係者ではなく、患者さんの付き添いの人。
面会時間帯に関係なく、いつも昼前から来て最後まで
終日病院にいます。日によっては2回も通う事も。
とは言え、決して近場にお住まいではなく、バスをいくつか
乗り継いで、違う街から通っています。

お話を聞くと、もう何年にも渡っての長い間
おじさんに付き添ってあげているそうです。
しかも親族からは一銭のお金も支払われず、お礼の言葉もなく
交通費もお昼代も、全てご自分で払って通っているとの事。
そう、ご本人いわく「私は身内ではないの」と。
なので奥様でもないご様子。呼び方に迷うので
ここではあえて「介護おばさん」と称しています。

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介護おばさんはある意味「病院介護の達人」と言うか
「病院の住人」の様な存在です。病院内を自由に散策したり
ベッド脇のカーテンを勝手に開けては、患者さんや家族にも
話しかけたりもするので、それぞれのご家族の事情に妙に詳しい。
同時に、病院やスタッフの事情にも詳しい。
そして無類の世話好きでもあるので、こちらの介護にも
絶えず口を挟んできます。恐らく、会話ができないおじさんと
一日中病院にいても退屈だし、寂しいし、話し相手が欲しいのでしょう。

入院した当初は色々な部屋を移動して、色々な方と同室になった父ですが
どういうわけか私が仕事を辞めて、日参できるようになった頃から
介護おばさんと同室になり、実に次に部屋の移動をするまで
7か月もの長期間、共に過ごす事になりました。
するとはじめは遠慮がちだったおばさんも、次第に慣れ
一つ一つの動作に声をかけて来るようになり、また我が家の
見舞客を見ては、家族事情を次第に把握してきたりします。
果たしてプライバシーはどこに?

いつ病室に行っても、どの時間帯に行っても、
おばさんがいる状態な上に、今度は病室内に収まらず
「一緒に帰りましょう」と言われ、帰り道もずっと捕まって
介護の愚痴を聞かされることも、たびたびありました。
これは一体どう対処したらよいものか。

中でも一番困るのが、おばさんが父に向かって
「もう家には帰れないしねぇ」とか「最後まで面倒見てあげてね」
などと言う時です。実は我が家では、父にもう家には戻れない事実を
伏せていました。体調が整えばまた家に帰れると、父は思っていたし
それが生きる気力になっていると思ったので。
おばさん、悪気がないのが最大の悪気。
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さすがにこれはちょっと困るなと思った矢先、
ある出来事が生じます。
そしてそれを機に、私は「この介護おばさんが病院にいる事は
もしかしたら、それなりに意味があるんじゃないかな」と
思うようになっていきました。
この方を通じて、私は何かを勉強させて貰って
いるんじゃななかろうか、と。

そんな感じで、病院では日々色々な事が起こるので
私もそれなりに通い甲斐がありました。
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