第69話「本とテレビとみんなの介護事情」 [周囲の人々]

2015年5月~6月

父の介護を始めて5年が経った2015年の春。
モチベーションを上げるために綴っていた、このブログが
出版され、次いでその本がTV(NHK)でも紹介されました。
ずっと家庭内で行われていた介護が、いきなり明るい日の目を
見る事になり、それと同時に沢山の方から様々なご意見を
聞く事になりました。
今回はそれらを一部まとめてお伝えします。


その1:共感する人・語る人
本を読んだ感想の中でも多かったのは
「自分も介護をしている、したことがある」と言う方々の意見でした。
中には「えっ、この人も介護をしているのか!?」と言うように
人知れず介護をされている方が、思った以上に多くいました。
対象は自身の親や配偶者の親、祖父母、更には体が弱かった娘さんを
看取る話まで、介護する(した)人も内容も様々でした。
「救急車で運ばれた時の項目は、共感できる。うちもそうだった」とか
「悩みが共有できた様で嬉しい」と言うような、自身の経験と重ねあわせて
読んで下さった事がわかる、深い感想が多かったです。


その2:本を役立てようとする人
まだ介護をしていない人、もしくは介護が始まるかも…と思う方々は
「この本を今後の参考に」と、読んで下さいました。
実際に「介護以外でも急患時の対応などに役立つ」と言って
大事そうな箇所に付箋を貼ったり、赤線を引いて
読まれている方もいました。
「(事が生じる前に)色々な情報を知る事は大切ですね。
余裕を持った介護がしたいと思います」と言う、ご意見もありました。
本の影響100.jpg


その3:泣く人、笑う人
様々な感想の中で一番多かったのは「面白かった」と言うモノでした。
実にストレートな感想です。しかしそう言った方々は皆
その前後に決まって「こういう言い方はいけないと思うけど…」と
口ごもられていたのも印象的。けれどこのテーマが重い内容を
イラストを用いていかに読みやすく伝えるか…をずっと
模索していたので、面白いと言って明るい気持ちで
読み進めて頂けた事は、素直に「良かった」と思います。

反面「泣けて泣けて、読めなかった」と言う感想も複数ありました。
父に対しての思い入れの度合いにもよると思いますが
同じ本でも読む人によって、捉え方がずいぶん違うんだなと
言う事を、改めて思わされました。

また同じように多かったのは「よく書いたなぁ!」と言うご意見
(背景には「介護しながら、記録をまとめて、絵を描いて、文章も書いて」
と言う思いがあるようです)と、「励まされた」と言うご意見。
「介護だけでなく日常の姿勢にも励まされます」とか
「元気が出た」「頼もしい本」と言う感想もありました。


その4:父を思い出してくれる人
ブログが本になり、テレビで紹介されて、何が一番嬉しかったかと言うと
「(父の事を)改めて思い出した」と言ってくれた方が、多数現れた事です。
人はたとえ元気でも疎遠になったり、自然と忘れられたりします。
まして病気で表に出てこなくなったら尚更です。
その父の事を、本によって思い出してもらう機会を得た。
忘れられていないと言う事は、家族以上に恐らく本人が一番
嬉しかったと思うし、生きる気力につながったと思います。

「お嫁に来た時、勝手がわからなくて困っていたら
ここのおじさん(父)が気づいて『どうした』って声をかけてくれたの。
男の人だから、それ以上余計な事は聞かないんだけど
気にかけてもらえた事が嬉しくて。本を読んでその時の事を
思い出しちゃった」と、家族でも知らない父との思い出を
話してくれる人もいました。


その5:介護の相談をする人
介護の本を出版したと言う事で、私を「介護に詳しい人」と
思った人もいました。実際には今でも何もわからなくて
ただ実体験を書いただけなのですが、そこはやはり俗に言う
「活字の力」のせいかもしれません。妙な説得力が出るのかも。
「介護が必要な母に世話を焼くと、同居しているお嫁さんの
機嫌が悪くなるのでどうしたら良いか」とか、また編集部の方にも
「介護相談できる場所を教えて欲しい」と言う様な内容の
お電話もあったと聞きます。

私の乏しい経験からは、残念ながらお答えできる内容は
限られてしまうのですが、逆に考えるとそれだけ
介護で悩んだり、不安を抱えている人が多いと言う事かな
とも思えました。


その6:介護とは何か
「人間は本当に人との繋がりが生きる活力になっていると思う」
「生きていると色々な事があるけれど、みんなで協力する気持ちを
忘れずにがんばりましょうね」
実際に介護を体験した方や、大変な時代や別れなどを経て
長く人生を生きてきた方が、本を読んで口にしたのは
周囲の人々と協力して乗り越える事の大切さでした。

私よりもうんと年配の方々、とりわけ95歳ぐらいのおばあ様から
こういう言葉をかけられると、実に説得力があります。
また、ある方は「大変だけど、父親は一人だけだから頑張ってね」とも。

私自身は介護が大変だと言う人を、どのように助けて勇気づけたらいいか
良くわからないけれど、私が実際に励まされたこれらの言葉が
この章を読んで下さった方の、新しい励みや支えになったら
嬉しいなと思います。
本の影響1002.jpg


その他にも、全国各地(岐阜、沖縄、三重、石川…などなど)の
まだお会いした事も、話した事もない読者の方々から
丁寧な感想を送って頂きました。

一方で、「(あなただけではなく)私だって本が出せると思うわ」と言う方や
「大してうまい絵でもないのに、本になるなんてね」とか
また「本と言うものはね…」と、長々薀蓄(うんちく)を語った後で
「(私の本も)買ってあげられたいいんだけどね」と言って
結局買わなかったおじさまや、まぁ色々な反応がありましたが
そのどれもが参考になりました。

そして最後は、ちょっと不思議な方からの感想を。
本が出版されて1か月ぐらいが過ぎて
少しずつ周囲も落ち着きを取り戻し始めた頃。
ある朝、目が覚める直前に耳元で父の声がしました。
「上から見てたよ、良かったな」と。

一見、夢かと思われそうな話ですが、映像は見えていないので
夢とはちょっと違います。でも耳元ではっきりと声がしたので
その場で驚いてパッと目を開け、すぐさま
「久しぶりに父の声を聴いたな」と思いました。
その独特のかすれ具合も、抑揚の付け方も、声色も、どれもが
幻聴にしてはすごくリアルで、はっきりしていました。
思えば脳梗塞で倒れてから、もう5年以上、父のはっきりとした言葉を
聞いていませんでした。それが夢でも幻聴でも構わない。
ただただ、懐かしい。

仮にもし本当に父が不自由な体から抜け出して
自由に外の世界を見て回っているのだとしたら
それは介護を続けている家族にも、慰めになる空想だと思いました。

介護って、良い事も悪い事も、そして不思議な事も
本当に色々な側面があります。時には人の本質が
垣間見えてしまう怖さもある。
「まるで人生の縮図みたいだな」と、この時期は人々の
体験談や感想などを聞きながら、しみじみと思っていました。

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